インプラント治療を行う上での骨造成手術の必要性について
インプラント治療を行い、成功へと導くためには、インプラント体を適切な深さ、幅に埋入するための歯槽骨の幅や量が必要となります。しかし、現状では骨量が不足している患者様は多くいらっしゃいます。欧米人と比べ日本人は顎の骨が薄い方が多いのでその傾向は高くなります。
その場合、インプラント治療は不可能かというとそうではなく、骨料が不足しているところにお口の中の他の場所から骨を採取したり、骨に置き換わる薬剤を使用して骨を造ることが必要です。それが骨造成手術です。
インプラント治療を長期的な安定したものとし、また明るい食生活、素敵な笑顔を長く保つためには非常に有効な方法です。
ソケットプリザベーション
インプラント予定歯の抜歯の際はソケットプリザベーション
テルプラグは、テルモ社製で、若い牛の真皮からできたアテロコラーゲンです。
アテロコラーゲンは生体適合性に優れており、創部の周辺組織から血管や組織が侵入し、組織を再構築していきます。また抗原性はほとんどありません。 BSEは問題ないとされております。
皮膚や口腔粘膜欠損に広く使用されている「テルダーミス真皮欠損用グラフト」をもとに開発されたものです。
歯科医院で、抜歯後に強いうがいをしないように言われたことがあるかと思いますが、抜歯した部位の血の塊が取れてしまうと、骨が露出して、感染を起こし、治癒不全が起きます。血の塊が、肉となり骨になるのです。
抜歯後、今までは、自然治癒にまかせたり、止血材を挿入していましたが、テルプラグを使用すると、創部を止血し、食べ物などの迷入を防止するとともに、腫れや痛みなどの不快感を緩和します。また、治癒のスピードが速くなり、抜歯した部位が陥凹するのも減少できます。
なぜ骨造成が必要になるのか GBRとサイナスリフトについて
インプラント治療の成功の一つにインプラント周囲に十分な骨が存在するということがあります。
しかしながら、歯を失うことで歯槽骨は吸収し、歯周病によって、歯槽骨が吸収していくと、骨の幅や高さが減少していきます。このような状況で歯が抜けるようになったときには、骨の吸収はかなり進んでいて、歯槽骨はかなり後退していることが予想できます。
上顎には骨を隔てたすぐ上、頬骨の奥に上顎洞というものが存在します。この空洞は鼻腔へとつながっていて、鼻柱骨によりまん中で左右にわかれています。この空洞が生まれつき下の方へ、つまりお口の近くにある方は、上顎の骨が薄くなっています。(1〜2ミリほどの厚さしかないケースもあります)
また、下顎奥歯には下顎管があり、下顎管には神経や血管が存在し、それを損傷すると重篤な問題が起きます。上顎下顎ともに著しく骨の吸収を認める患者さんへのインプラント治療には骨造成術が必要となります。(レントゲンの〇印)
欧米人に比べて日本人は顎骨が小さい方が多く、当院では骨造成術を施す必要がある患者さんは全体の70%程度となっております。(骨造成の量はそれぞれ異なります)
GBR法について
歯を失うとこのように垂直的水平的に骨が吸収します。
インプラント周囲には十分な骨が必要であることから、このような症例には骨造成術を施す必要があります。
当院では前歯のインプラント埋入手術では85%の患者さんがこのような骨造成術を施しております。奥歯は50%程度の症例で骨造成術が必要となっております。
このような骨造成術はインプラント埋入と同時に行いますので、患者さんの苦痛は1回だけとなります。術後はそれほど痛みはなく(抜歯と同じ程度)、通常の生活を送ることができます。
上顎前歯部への骨造成(GBR)
上顎前歯部の骨造成です。左側は術前となりますが、このように唇側へ4ミリ程度骨を増やしておく必要があります。
そのことにより、インプラント周囲の粘膜が長期にわたり安定し、審美的にも良好な結果につながります。
上顎前歯の写真は左上1番にインプラント治療を行い20年経過している患者さんです。このように前歯のインプラント治療は審美的要求が高いため、適切に骨を造成することで、長期にわたり調和のとれた歯肉ラインを保つことが可能となります。
上顎洞への骨造成(サイナスリフトについて)
サイナスリフトとは、上顎の奥歯の歯槽骨(歯を支える骨)が薄くなっているケースで、骨量・骨幅を増大させる方法です。
当院の場合は、患者さんご自身の骨が5ミリ以下である場合にサイナスリフトを行います。
サイナスリフトは約1時間程度の手術時間です。術後は脹れは予想されますが痛みはほとんどないとおっしゃる患者さんが多い印象です。
サイナスリフトの実例です。術前は1ミリ程度の歯槽骨しかありませんでしたが、サイナスリフトを施すことにより歯槽骨を垂直的に15ミリ程度増骨することができました。
これであれば十分な長さのインプラントを埋入することが可能となります。
上顎洞への骨造成(ソケットリフトについて)
ソケットリフトはサイナスリフトよりも患者さんのストレスが軽減できる手術法ですが、ご自身の骨の厚みが5ミリ以上あることが条件です。
サイナスリフトのように大幅な造骨はできませんが、3〜4ミリ程度の造骨は可能です。
骨補填材について
上顎洞への骨造成で使用する骨補填材について
b-TCP (Tricalcium phosphate)
β‐TCPは、リン酸三カルシウムの一つの型の骨補填剤です。
当院では、オリンパス社が製造しているオスフェリオンを使用しています。 簡単に言うと、骨の無い部位にオスフェリオンを移植すると、しばらくしてオスフェリオンが吸収して、その吸収した所に骨ができるという具合です。
当院における骨造成手術の実績と予後
当院における骨造成手術の実績と予後(1997年〜2019年)
当院はインプラント専門医院として数多くの骨造成術の実績があります。インプラントの安定には周囲に十分な骨が存在することですが、骨を増やす手術というのは簡単なものではありません。骨造成術はインプラント専門医で行うことを強くお勧めします。表に示すように、手術の難易度が増すとその分合併症の発症率も増します。
当院でも術後感染を認めた症例を経験しています。そのことは治療説明時に詳細をお話しいたします。
|